現行の寄附金税制は、所得控除と税額控除の選択が可能であり、控除額の拡大も行われたものの、十分に活用されているとは言えない状況である。その主な理由として、制度の複雑さや手続きの煩雑さが挙げられる。寄附者の確定申告実施状況に関するデータは、制度の正確な理解不足や手続きを面倒と感じる層が一定数存在することを示唆している。特に「新しい公共」の概念が目指す草の根的寄附の促進には、寄附金税制の控除額を拡大する等の制度自体を魅力的にする方向ではなく、手続きを簡便化し、使い勝手の良い制度にする方向が合致すると考えられる。
我が国の給与所得者の多くは年末調整によって課税関係が完結する簡便な制度の恩恵を受けているが、寄附金控除は年末調整の対象外である。年末調整においては、雑損控除、医療費控除、寄附金控除の適用を受けることはできないとされている。このため、年収2,000万円以下の一般の給与所得者が寄附金控除の適用を受けるためには、不慣れな確定申告を行う必要があり、これが寄附金控除の適用を阻害する要因となっている。
寄附金控除の年末調整への組み入れは、過去に源泉徴収義務者の事務負担増加を理由に見送られてきた経緯がある。一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)は、寄附先NPOの実態確認等を個々に行うことは企業単独では困難であり、事務負担の増大は避けられないとして、寄附金控除の年末調整対象化に消極的な提言を行っている。また、年末調整においては、従業員が雇用主に対し、家族構成や配偶者の所得情報といった極めて個人的な情報を提供する必要がある。寄附金控除が年末調整の対象となれば、納税者が寄附先を源泉徴収義務者に申告することになり、雇用主が団体の活動内容等から個人の信条や政治思想といった内面的なプライバシー情報を知り得る恐れがあり、この点も課題として認識されている。
寄附金控除の年末調整への組み入れを実現するためには、現行の年末調整制度の簡素化、源泉徴収義務者の事務負担の最小化、および寄附者のプライバシーに配慮した制度設計の三点が不可欠である。
まずICT技術の活用により、確認コスト等の事務負担を軽減することが求められる。国税庁はマイナポータル等を活用し、年末調整や確定申告の手続き簡素化を進めており、行政のデジタル化が進展すれば、マイナンバー制度を活用した「特定寄附金情報」の取得・連携は不可能ではないだろう。これにより、寄附者は証明書を提出する必要がなくなり、給与支払者は情報収集の手間が不要となるため、双方の事務負担が大幅に軽減されると考えられる。
マイナポータルを活用した寄附金控除の年末調整への組み入れの実現可能性