源泉徴収制度の沿革と事務負担の増大
我が国の所得税における源泉徴収制度は、昭和15年に創設されて以来、その対象範囲を拡大してきた。現在では、国内事業者の半数以上が源泉徴収義務者となり、所得税収の約半分を賄う基幹的な徴税システムとして機能している。本制度は、所得税徴収機能、所得把握機能、そして徴税コスト削減に寄与する優れた側面を持つと評価されている。しかし、その一方で、源泉徴収義務者である企業側の事務負担は増大の一途を辿っている状況である。
近年の税制改正による所得控除の複雑化(基礎控除や配偶者控除の逓減・消失など)、外国人労働者増加に伴う国外扶養親族等の確認、マイナンバー制度への対応、住民税特別徴収の義務化など、多岐にわたる要因が事務負担を重くしている。源泉徴収義務者には、納税者の申告内容に誤りがあっても適正な源泉徴収を行う法的責任が課せられているにもかかわらず、その内容を調査する権限は与えられていない。このような状況は、企業側の事務負担が限界に達しつつあることを示唆している。
年末調整制度は、給与所得者の確定申告を不要とする簡便な制度として機能してきた。しかし、働き方の多様化や副業の増加により、年末調整のみで課税関係が完結しない納税者が増加しており、制度の意義が薄れつつあるとの指摘も存在する。また、年末調整においても、従業員が雇用主に家族構成や配偶者の所得情報といった極めて個人的な情報を提供する必要があり、プライバシー保護の観点からの課題も指摘されている。
このような源泉徴収義務者の事務負担の重さは、寄附金控除を年末調整の対象とすることに対する経済界からの最大の反対理由となってきた経緯がある。既存の年末調整制度に新たな控除項目を追加することは、事務負担のさらなる増大を招くことが明らかであるため、この課題の解消が制度化の障壁となっていると考えられる。