寄附金税制の利用が伸び悩む主要な要因は、納税者による制度理解の不足と、手続きの煩雑さにあると分析される。特に「新しい公共」の概念が目指す「草の根的寄附」の促進には、控除額の拡大よりも、手続きの簡便化と使い勝手の良い制度設計が不可欠であると考えられる。この観点から、生命保険料控除のように寄附金控除を年末調整の対象とすることは、給与所得者にとっての利便性を大幅に向上させる有効な方策である。
しかし、寄附金控除の年末調整組み入れは、過去に源泉徴収義務者(企業等)の事務負担増大を理由に退けられてきた経緯がある。単に新たな控除項目を追加するだけでは、経済界の理解を得ることは困難である。この課題を克服し、年末調整組み入れを実現するためには、以下の3つの視点からの多角的な制度設計が求められる。
第一に、現行の年末調整制度自体の簡素化である。ICT技術の活用により、控除証明書等の電子データ提出を促進し、資料回収や転記、確認にかかる事務負担を軽減することが可能である。生命保険料控除等でのマイナポータル連携の先行事例は、この方向性を示すものである。また、年末調整実施時期を年明けに後ろ倒しすることで、配偶者や扶養親族の所得見積もり計算が不要となり、二度手間の発生を抑制できる。これにより、年末調整時期に間に合わせるための情報収集期限の設定に関する課題も解消される。さらに、源泉徴収を所得税の「前取り」と明確に位置づけ、源泉徴収義務者の法的責任を軽減することも検討されるべきである。
第二に、寄附金控除を年末調整に組み入れることによる事務負担を最小限に抑えるための制度設計である。年末調整の対象となる給与所得者の多くは税額控除が有利となるため、寄附金税制の中でも税額控除が適用される認定NPO法人や公益法人等への寄附に限定して対象とすることが現実的である。これにより、所得控除と税額控除の有利不利判定が不要となり、事務処理が簡素化される。また、認定NPO法人や公益法人等については、内閣府等のポータルサイトでその適格性を容易に確認できる下地があり、寄附団体側の情報提供体制の構築が進めば、源泉徴収義務者の確認作業の負担は最小限に抑えられると考えられる。
第三に、寄附者のプライバシーに配慮した制度設計である。寄附先を雇用主に申告することによって、個人の信条や政治的思想が露呈する懸念がある。この問題に対応するため、納税者が年末調整を利用するか、確定申告を行うかを選択できる「選択的確定申告制度」の導入が有効である。これにより、プライバシー情報の提供を望まない納税者も、寄附金控除の適用を受けることが可能となる。
国税当局が寄附情報を一括収集・提供するシステムの整備には、寄附団体側の電子証明書発行体制の構築など、時間を要する課題も存在する。したがって、まずは生命保険料控除等でのマイナポータル連携を先行させ、その上で寄附金控除への対象拡大を進める段階的なアプローチが現実的である。